卒後2年が経過して、医療現場と学生時代との間にどのような違いを感じましたか?
学生時代は教科書に書いてある血圧、脈拍、呼吸数、体温などバイタルサインの基準値を知っていれば、どのような症状か判断できると思っていました。しかし、医療現場ではそうした基準値に当てはまらないケースが多いですね。例えば、持病のある患者さんの基準値は健康な人とは明らかに違うので、どのような数値が最適なのか考えなければなりません。教科書に書いてあることが正解とは限らないと強く感じました。
新人として病院に入って、どのような研修を受けましたか?
私の入った病院の研修期間は3ヶ月でした。最初の1ヶ月で集中治療室、透析室、手術室、心臓カテーテル室、高気圧酸素室など病院内で臨床工学技士が働いている場所を一通り回ります。次の2ヶ月目は透析室において慢性患者用の血液透析装置、高度救命救急センターでは急性患者用の血漿交換装置の操作を学びます。3ヶ月目に入ると心臓カテーテル室で、不整脈治療のカテーテルアブレーション(焼灼)や虚血性心疾患治療で行われるカテーテル治療の段取りなどを学びます。さらに週に2、3回ほど心臓外科の手術が行われるので、手術室に入って人工心肺の操作を見学したりします。
予習、復習を行いながら研修を受けるので、結構忙しかったですね。
どのようなきっかけで臨床工学技士を目指したのでしょうか?
高校では物理や化学、数学などを中心とした理系コースに進んでいたため、母からは「理系の知識が活かせる仕事に就いたら」と言われていました。母は看護師です。臨床工学技士という仕事を教えてくれたのは母でした。病院で仲のいい臨床工学技士がおり、母はその方から卒業した学校を聞いてきました。それが私の入学した大学です。大学には保健看護学科、理学療法学科、作業療法学科などもありましたが、数学や物理が好きだった私は臨床工学科を選びました。
臨床工学技士の仕事で重要なのはどのようなことでしょうか?
病院で仕事をするようになって3年目なので、私のできる仕事は限られていますが、そうした中でも優先順位をつけて動けることだと思います。優先しなければならないのは、自分以外の人が関わる仕事です。それは先輩であったり、医師や看護師など他の職種の人だったりしますが、他職種に関わるものをピックアップすると、何となく優先順位が理解できるようになりました。考えてみたら普段の生活もそうなのです。帰宅後、食事の用意をしなければならないし、勉強もしなければならない。すると自ずと寝る時間も決まってきます。優先順位の選び方は、日常生活からも身につけることができると思いました。
臨床工学技士にはどのような資質が必要だと思われますか?
常に学習し続けることではないでしょうか。医療機器は次から次へと開発され、これまでにない新しい手術や手技が登場します。そうした時代の流れについていくためには、新しいことに挑戦し続け、学習していかなければなりません。
医療現場は基礎的な知識や技術を持っていることが当たり前の世界です。医療現場では毎日違う患者さんに対応し、さまざまな医療スタッフとともに仕事をするので、常に応用が求められる職場と言っていいでしょう。応用が求められる仕事をきちんと行うためには、学習を継続する姿勢が必要だと思います。
臨床工学技士としての夢、目標はありますか?
小学生の頃から英語を習っていたので、海外で英語を活かした臨床工学技士の仕事をしたいと思っています。母は看護師ですが、消化器内視鏡技師の資格を持っており、海外で医療指導するスタッフの一員としてタイ、ベトナムに行ったことがあります。当時、高校生だった私はそれをとても羨ましく思いました。日本臨床工学技士教育施設協議会のウェブサイトで、臨床工学技士が海外で医療活動をしている情報を目にしたことがあるので、自分もそういった活動に参加したいと考えています。
また、当院でも海外からの患者さんが増えてきました。私も麻酔の呼吸管理のサポートで海外からの患者さんに対応したことがあります。ほんの一言英語が通じただけのことでしたが、とても感動しました。
臨床工学技士を目指す高校生にメッセージをお願いします。
高校時代は数学や物理といった学校の勉強が退屈と感じるものです。しかし、私は臨床工学技士として病院で働くようになって、その大切さを実感しました。
臨床工学技士になることが目標ならば、高校での勉強だけではなく、病院や大学などで行っている臨床工学技士のイベントに参加してみてください。新型コロナ感染症の治療で使用されたECMOや手術支援ロボットなど、いろいろな医療機器に接することができるでしょう。そうしたイベントを通じて勉強に対するモチベーションをアップさせてください。