先輩インタビュー:齊藤千晶さんから皆へ
どのようなきっかけでこの職業についたのですか?
東京電気大学を卒業した後、東京電子専門学校に入学しました。臨床工学技士という職業を意識したのは大学時代です。人間工学という学問に出会い、人体の構造やその特性に基づいて設計されたものに興味を抱きました。その流れでゼミに入り国際福祉機器展に参加した際、「人と機器の間に立つ仕事っていいな」と思ったのです。そして、医療には薬剤師や臨床検査技師などコメディカル分野があり、その一つに臨床工学技士があることを知りました。臨床検査技師になることも考えましたが、大学で学んだ知識が活かせると思い、臨床工学技士を選びました。
私は「人と機器の間に立つ」臨床工学技士という職業に魅力を感じています。幼い頃からコンピュータに親しみ、機器に対しても人と同じように感じて接してきました。今でも輸液ポンプのことを「この子」と言ったりします。そのように感じている機器と医師や患者さんの間を取り持てる職業は他にはないと思っています。
臨床工学技士の仕事をどのように捉えていますか?
私達の仕事の本質は「機器管理」です。もちろん臨床で使用される医療機器の操作という仕事もありますが、それも何時でも安心して使用できるように機器の保守・点検が行われているからこそだと思います。
また、ME室で作業していると、医師や患者さんが医療機器をどのように使用しているのかがわかりません。先輩からは、透析装置の作動中にエラーが鳴った際、装置ばかり見ているのではなく、横にいる患者さんの様子を確認しなさいと言われました。HCU(高度治療室)や透析室、人工呼吸器が使用されている病室に行くことはありますが、普段、一般病棟に行くことはほとんどありません。医療機器がどのような使われ方をしているのか、常に想像することが重要だと考えています。
様々な部署から依頼がくるので対応に悩む場合もあります。しかし、それを乗り越えて解決できたとき「ありがとう!」「助かったよ!」と言われることにやりがいを感じています。
臨床工学技士になるにはどのような資質が必要だと思われますか?
好奇心とコミュニケーション能力ではないでしょうか。日々進歩する医学に併せて、医療機器も次々と新しいものが登場します。また、機器の能力を最大限に引き出すためには、機器に関する知識だけではなく、使用場面に関わる医学の知識も必要になります。何にでも興味を持って調べたり試したりするような好奇心をもつことが大切だと思います。
また、臨床工学技士には、在宅医療における医療機器の使用、ペースメーカを植え込んだ後の指導など、患者さんやご家族の方々に説明をする機会があります。さらに院内における医療機器のエラー時の対応について、機械の専門家ではない院内の医療スタッフに説明する場面なども出てきます。人と機器の良い仲介役となるためには、人が望むことと機器の機能を正しく理解し、うまく伝えるコミュニケーション能力が必要だと考えます。
今後、臨床工学技士の仕事を通じて実現したい目標、夢などはありますか?
目標の1つに、院内における臨床工学技士の地位向上があります。タスクシフトにより臨床工学技士が治療に直接介入する場が増えていますが、現状は「臨床工学技士でなければやってはいけない」という業務はありません。院内で私達の存在を認めてもらうには、「医療機器のことといえば臨床工学技士!」と思われる必要があります。それには、治療現場で機器を操作するだけではなく、治療と機器の関係をさらに深く知り、安全かつ最大限のパフォーマンスが出せるよう仲介することが大切です。臨床工学技士は人と機器の仲介役、こうした信念を後輩にも伝えたいと思います。
もう1つは勉強会の場を増やすことです。入職時の新人看護師向け勉強会は必ず行いますが、定期的な勉強会は実施できていないのが現状です。不適切な操作、使用者の不注意などによる故障や破損がどうしても一定数出てしまいますが、修理にかかるコストは抑えなければなりません。医療スタッフは皆忙しく、なかなか時間が確保できないのでe-Learningによる学習なども考えています。
また、AIの動向に興味を持っています。現在、診断の補助や診断画像の補正などを行うAI医療機器が登場しており、近い将来、そうした機器の調整やメンテナンスなどの仕事ができるのではないかと期待しています。