メッセージ

どのようなきっかけでこの職業についたのですか?

私が高校を卒業したのはバブル経済が崩壊する直前でした。大学進学を考えていましたが、祖父から「大学卒業後、世の中がどのように変化しているかわからないぞ。資格を取って手に職を付けた方がいい」と助言されました。さまざまな資格や専門職を調べていた時、母から「人の役に立てるし、困った人の支えになる仕事だから、あなたに合っているかもしれない」と言われたのが想定外の業種、医療職でした。いろいろ調べてみたところ、臨床工学技士という資格にたどりつきました。もともと理系での進学を目指していたので、医学的知識と工学的知識を併せ持つ医療機器の専門医療職に魅かれ、臨床工学技士を目指すことにしました。卒業後、日本大学病院に入職し、以来約四半世紀、同じ病院に勤務しています。

 

入職後、どのような仕事をされましたか?

入職後、救命センターに配属されました。臨床工学技士法が施行されてまだ数年しか経っていませんでしたから、私が入職する前には病院に臨床工学技士はいません。入職後、すぐに科長の医師から聞かれたのが「何ができるのか?」。「まだ何もできません」と答えると、「君は国家資格を持っているのだから、プロとしてここにいるんだ。何もできないじゃ困る」と言われました。院内でどのように活動するかを考えながら、私ともう1人の同期の2人で臨床工学のシステムを基礎から作り上げることになりました。
現場では徹底的に鍛えられました。毎回、内科系、外科系、脳神経外科系のカンファレンスに参加し、各グループ長からは医療機器を使ってどのように治療を組み立てるのか提案することを求められました。提案するとそれに対して疑問点が出され、相手が納得するまで説明しなければなりません。
また、毎週のように基礎医学や臨床医学の論文抄読会があり、これにも参加するよう促されました。論文は全て英文です。論文も英語も苦手でしたが、負けたくないという意地から仕事の後も残って勉強しました。

 

臨床工学技士の仕事において心掛けていることを教えてください。

今の私があるのは、現場でプロ意識を厳しく鍛えられたおかげです。チーム医療の中で臨床工学技士としての発言力を持つことができるようになったのも、医師や看護師など他の職種の方からさまざまな相談、助言を求められるようになったのも、臨床工学室をゼロから作り上げることができたのもです。そうした経緯を経て、私の中に臨床工学技士としてのさらなるプロ意識が生まれました。
他には、ほんの少しでも疑問に思うことがあったら、皆で話し合う習慣です。なぜ、その選択をするのか? 臨床工学技士は患者さんの命を預かります。本質を考えて行動すべきでしょう。当院では、後輩が「どうしたらいいですか?」と聞いてきたら、「君はどう思う?」と聞き直し、その答えをスタッフ全員で考えるようにしています。すでに定められたルールであっても自分自身でしっかり考えることが大切です。
チーム医療はさまざまな医療職が力を合わせて、患者さんの治療を行い、回復を図ります。こうした活動の中では医師や看護師と日頃からコミュニケーションを取らなければならず、相手を理解するために必要な医学、医療知識を身につけなければなりません。

 

どのような理由で博士号を取得したのですか?

私は40歳の時、順天堂大学大学院に入学し、4年間、博士課程で学び「博士(医学)」の学位を取得しました。なぜ臨床工学技士に学位が必要だったのか。1つは今後の臨床工学技士の発展には、専門の学問形態を構築することが必要であり、そのためには学位が必須であると考えたからです。
もう1つの理由は臨床経験だけでは不可能な本格的医学研究に携わることができる。私の博士論文は「敗血症と免疫」に関する研究でした。私が臨床工学技士の責任者を務める救命救急センター・集中治療室では、臓器障害に対して医療機器を使用して治療を行います。「敗血症と免疫」というテーマは、臓器障害のメカニズムを把握する上で重要であり、現場での治療によい結果をもたらすと考えました。

 

未来の臨床工学技士の役割をどのようにお考えですか?

与えられた仕事をこなすだけでは、臨床工学技士の活動の場は現状維持であり、それ以上の広がりは期待できないでしょう。しかし、医療職の中では比較的新しい職種である臨床工学技士は、新たに求められるニーズが多くあります。これからの臨床工学技士はそうした可能性を自ら切り開いていくことが大切です。
今、私は病院外では国内外で発生する自然災害に対する医療活動に参加しています。2015年に発生したネパール地震にも派遣されました。そして内閣府の災害時の医療体制を検討するワーキンググループやJICAの国際緊急援助隊医療チームの検討班にて今までの経験を生かした様々な検討を行っています。このプロジェクトは屋外や船、空港施設など病院ではない所で医療を展開することを目的としています。こうした場所では電源の確保や安全環境を作ることが難しく、医療機器を使用するにも相当の準備と努力を要します。私は医療機器の専門家として、こうした被災地でも安全で適切かつ効率的な医療を提供できるように全力で取り組んでいこうと考えています。
臨床工学技士としての自分をどのように切り開いていくかは、人それぞれ違います。各分野で新しい道を切り開いている技士は沢山います。それぞれが将来どのようなニーズが臨床工学技士に求められるのか、常に考えていくことが重要でしょう。

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